「―――なんで居ンのよ」
昼間の晴天がどっか行っちゃって、夜空は厚い雲に覆われている。天気予報って確か夜中に雨が降るって云ってたな。
「夜衣こそ、なんで来たのさ。寒いよ?」
「そう思うならもうちょっと着込みなさいよアンタは」
云い返すと、「ふふ、確かに」って笑って、ポケットに突っ込んでいた手を出した。
その両手には小さなペットボトル。
「まだあったかいよ」
「ふぅん。さんきゅ」
迷わずに左の方を取る。いつもそう、彩夜の右手には甘くてミルク多めのカフェオレ。左手には砂糖少なめの苦い珈琲。隣に並んでフェンスに背を凭れ、キャップを開けて口をつけた。
「んん?」
口内に広がる風味に、慌てて隣を見ると彩夜はどえらい顰めっ面をしてる。
「あれ? 俺、間違え・・・・・・てないよな」
夜でも街の灯りでこの場所すら明るい。雲に覆われて月明かりがなくてもそれは変わらない。手にあるボトルを確かめると『ミルクたっぷりカフェオレ』の文字。
「えー、・・・・・・悪い。取り替える?」
「・・・・・・・・・・・・不衛生だからいい」
ぼそっとそんな返事が来た。まぁそう云うだろうとはわかっていたけどさ。
「うん。なんかさ―――なんか、」
「うん?」
「来るんだろうなって、思ってさ」
「・・・・・・うん、」
「思ったから。買うじゃん。いつも。買うんだよ。ふたつ。2種類」
「うん」
「訊かずに、取るじゃん。いつもこっち」
「そーね。決まってるもん。もう、ずっと左が俺用だって」
「うん。そう。決まってるから、だから、」
「だから?」
「変えてみたかった」
「・・・・・・・・・・・・ふーん、」
「別に隠して持ってたわけじゃないし、良く見ればわかるじゃん。パッケージ? 違うし。だから、気付いてこっち取ればそれはそれで良かったし、」
ぼそぼそと、そう云って、彩夜はひとくち珈琲を飲む。「苦い」
「――――――苦いなぁ、」
「・・・・・・それでも、それブラックじゃないから甘いと思うけどね」
「うん・・・・・・・・・・・・、いや、でもぼくにはさ」
――――――にがいよ、
ぽつっと、
そう呟いて彩夜は空を見上げる。
俺も空を見上げて、そのついでにペットボトルの中身を全部飲み乾した。
「・・・・・・甘ぇ・・・・・・、」
見上げた空に、月は見えていないけれど、
けれど俺たちはきっと、同じ■をみている。